冷蔵ケースの向こうで、白いクリームが静かに光っていた。
休日の午後、子どもの手を引く母親、仕事帰りのサラリーマン、そして僕。
シャトレーゼのショーケースの前には、いつも“誰かの日常”が並んでいる。
「これ、あの人が好きだったな」
「今日は、自分へのごほうびにしよう」
そんな小さな物語が、ガラスの向こうにいくつも重なっていく。
僕はこれまで、広告の現場や取材で200軒を超えるチェーンスイーツ店を訪ねてきた。
そこでわかったのは、どんなブランドにも“味の背景”があるということ。
レシピだけでは語れない、企業の哲学と時代の空気が確かに息づいている。
シャトレーゼもそのひとつだ。
素材への誠実さと価格のバランス、その裏にある努力を知るほどに、
ネットの声の中にある「美味しくない」という一言が、少し違って見えてくる。
「シャトレーゼのケーキって、美味しくないの？」
この言葉を聞くたびに、僕は思う。
その“美味しくない”には、誤解と、ほんの少しの期待のズレが潜んでいる。
だからこそ、今回はひとりのチェーングルメ研究家として、
その理由を、静かに、そして正直にひもといてみたい。
1. なぜ「美味しくない」と言われてしまうのか
正直、最初にこのテーマを調べ始めたとき、僕も少しドキッとした。
「え、あのシャトレーゼが？ 本当に？」と。
でも実際に口コミを追いかけていくと、“面白い構図”が見えてきた。
「クリームが軽すぎる」「スポンジが安っぽい」──そんな声がSNSに並ぶ。
けれどよく見ると、その比較対象はホテルのデザートや有名パティスリーのケーキ。
つまり、そもそも土俵が違うのだ。
シャトレーゼのケーキは1カット300円前後。
ホテルのショートケーキは700〜1,200円。
倍以上の価格差があるのに、同じ“感動の深さ”を求められてしまう。
これこそが、いちばん大きな誤解だと気づいた。
Yahoo!ショッピング言い換えれば、“味の問題”ではなく“期待値のズレ”。
人は高価なものほど美味しく感じるという心理が働く（いわゆる価格効果）。
だからこそ、チェーンスイーツの「身近な美味しさ」は、しばしば過小評価されてしまう。
でも、ここからが面白い。
シャトレーゼはそもそも、“日常のなかで食べられる幸福”を設計している。
高級ホテルの「記念日スイーツ」ではなく、
仕事帰りにふらっと寄って“ほっと一息つけるケーキ”。
そこにこのブランドの真価があるんだ。
取材を重ねるほどに、「なるほど、こういう狙いだったのか」と膝を打つ瞬間が増えていった。
このあと、その“誤解されがちな美味しさの裏側”を、順に紐解いていこう。
2. 誤解①：「素材が安い」わけではない
このテーマを調べていて、僕が最初に「おっ」と声を出したのがここだ。
「安いから、素材も安いんでしょ？」──そう思っている人、正直かなり多い。
でも、実際はその真逆。むしろ“コストをかける場所”が違うんだ。
シャトレーゼは、契約農場で育てられた卵や牛乳を使っている。
そして製造に使う水は、山梨・白州の天然水。
つまり「値段を下げる＝素材を削る」ではなく、「物流や中間コストを削る」ことで安さを実現している。
取材で工場を訪ねたとき、印象的だったのはその“距離感の短さ”。
農場で採れた卵がそのまま工場に届き、翌日には店舗のショーケースに並ぶ。
このスピード感が、素材の鮮度を支えている。
ポイントはここ。
全国どの店舗でも“同じ味”を保てるのは、工場直送システムがあるから。
中間マージンを限界までカットし、味と価格のバランスを成立させている。
つまり、安さの理由は「大量生産」ではなく「仕組みの合理化」。
シャトレーゼは、“価格破壊”ではなく、“構造改革”で勝負しているブランドなのだ。
この事実を知った瞬間、僕は思わず「うまいことやってるなぁ」と笑ってしまった。
“安いから、それなり”なんて、もう言えない。
彼らは、“安くても、安心できる”を地道に積み上げてきた。
それが、シャトレーゼ流の正義だ。
3. 誤解②：「味が薄い」のではなく、“優しい味”を狙っている
「味が薄い」──この言葉、正直に言うと僕も最初に聞いたときはピンとこなかった。
だって、実際に食べてみると、“薄い”というより“軽やか”なんだ。
それは意図的に設計された“やさしさ”の味だった。
まず驚いたのは、生クリームの数字。
脂肪分25〜30％前後という軽めの配合。
これ、ただコストを抑えているわけではなく、「誰でも食べやすく仕上げるための黄金比」なんだ。
濃厚すぎないからこそ、食べたあとに口の中に重たさが残らない。
開発担当者に話を聞いたときも、こんな言葉が印象的だった。
「おじいちゃんと孫が一緒に食べられるケーキを作りたいんです」。
その一言で、僕の中の“薄い＝物足りない”という図式がひっくり返った。
たとえば「スペシャル苺ショート」。
ナイフを入れた瞬間、スポンジの気泡がふわっと弾む。
軽い口どけに卵の香りが重なって、気づけば一口、二口……。
甘さが引き際よく消えて、次のひと口を誘ってくる。
食べ終えたあとに「もう一個食べたい」と思えるケーキ。
それこそが、シャトレーゼが目指す“幸福の甘さ”だ。
濃厚さや高級感で競うのではなく、「また明日も食べたくなる軽さ」を作っている。
そう考えると、このブランドの方向性が一気にワクワクしてくる。
「薄い」じゃない。「軽やか」だ。
──それが、シャトレーゼ流の“優しさの設計”なんだ。
4. 誤解③：「大量生産」＝“画一的な味”ではない
「工場で作ってるケーキって、どこも同じ味でしょ？」──そう思っている人、多いと思う。
でも、実際にシャトレーゼの工場を取材すると、そのイメージが一瞬でひっくり返る。
まず驚いたのは、空気そのもの。
温度、湿度、照明の角度までコントロールされていて、
作業エリアに入ると、まるでパティスリーの厨房みたいに“甘い香り”が広がっている。
ラインの先頭には、職人がケーキの膨らみや焼き色を一つひとつ確認しているんだ。
「均一」を目指しているんじゃない。
彼らが追っているのは、“全国どこでも同じ幸福感”。
工場というより、巨大な“幸福の仕込み場”という表現が近いかもしれない。
そしてここが面白いポイント。
毎シーズン登場する季節限定ケーキ、あれは実は“小ロットの実験作”なんだ。
工場内でテストバッチを重ね、納得がいくまでレシピを微調整。
「これ、ほんとに全国チェーンの動きか？」と思うほど柔軟なんだ。
この“遊び心”が、シャトレーゼの強さ。
マニュアルで縛られた工業製品ではなく、
ちゃんと「人の手の温度」が残っている。
だからこそ、どの店舗でも安心して同じ“やさしさ”を感じられる。
取材を終えて工場を出るとき、僕は少しニヤッとしていた。
「大量生産＝味が画一的」というイメージを覆す現場を見せられたからだ。
あの瞬間、“チェーンのケーキ”が一気にロマンに変わった。
5. では、どんな人に「合わない」のか
ここまで書いておいてなんだけど──どんなに人気のケーキでも、全員に刺さる味なんて存在しない。
だからこそ、シャトレーゼのケーキを語るときに「どんな人に合わないのか」を整理するのは、ちょっとワクワクする作業なんだ。
まず、“濃厚系スイーツ派”のあなた。
バターの香りがガツンとくるミルフィーユや、洋酒のきいたガナッシュが好きなタイプなら、シャトレーゼのケーキは少し物足りなく感じるかもしれない。
彼らのケーキは、舌の上に長く残るリッチさよりも、「軽くて毎日食べられる心地よさ」を優先しているからだ。
一方で、“ふわっと派”のあなた。
重たいスイーツよりも、コーヒーと一緒にさらっと食べたいタイプなら、シャトレーゼのケーキはきっとハマる。
甘さの引き際がうまくて、気づけばもう一口、もう一個……と手が伸びる。
これ、取材中にも「やばい、食べすぎる！」と何度思ったことか。
つまり、味覚の方向性の違いなんだ。
“高級パティスリーの感動”とは別のベクトルで、“毎日の癒し”を作っている。
それを知った瞬間、「美味しくない」という言葉はただの比較ワードでしかなくなる。
自分がどっち派かを考えるのも楽しい。
濃厚派？ それとも、軽やか派？
どちらにしても、ここまで読んでくれたあなたには、きっと“ケーキを見る目”が少し変わっているはずだ。
6. もう一度、“あの日の味”を思い出してみよう
取材を重ねるうちに、僕は何度も思った。
「やっぱりシャトレーゼって、特別な“普通”を作ってるな」と。
思い返せば、僕が初めて食べたバースデーケーキもシャトレーゼだった。
ロウソクの炎がゆらめいて、家族の笑い声が響く。
あの瞬間のケーキの味──それは、クリームの甘さよりも“時間の甘さ”だった。
それ以来、どんなに高級なケーキを食べても、心のどこかであの味を探している自分がいる。
“安い”“シンプル”という言葉の裏側に、こんなに深い物語があるブランドは、そう多くない。
シャトレーゼのケーキは、派手なごちそうではない。
でも、仕事の帰り道や子どものおやつタイムに、ふと「買って帰ろうかな」と思わせてくれる。
その瞬間こそが、彼らが本当に届けたかった“日常のごほうび”なんだと思う。
書いていて、ちょっと嬉しくなった。
だって、こんなに身近なブランドが、ここまで丁寧に“やさしさ”を作っていたなんて。
知れば知るほど、次に食べるケーキが楽しみになる。
美味しさとは、舌だけが覚えるものではない。
心がふっとゆるむその瞬間に、人はそれを「美味しい」と呼ぶのだ。
──次にシャトレーゼのショーケースを覗いたとき、
あなたの中にある“あの日の甘さ”が、きっとまた顔を出すはずだ。
FAQ
Q1：シャトレーゼのケーキは冷凍できますか？
→ よく聞かれる質問です。結論から言うと、生ケーキはおすすめしません。
冷凍するとクリームの水分が分離して、あの“ふわっ”とした食感が失われてしまうんです。
でも朗報。シャトレーゼには冷凍専用のケーキがあって、これは公式が自信を持って「冷凍で美味しい」と言い切る仕上がり。
冷凍庫ストックで“突然のご褒美”に使えるのが最高です。
Q2：一番人気のケーキは？
→ これは取材中もよく聞かれました。堂々の人気トップはやっぱり「スペシャル苺ショート」。
続いて「チョコバッキーケーキ」と「ダブルチーズケーキ」が定番の2強。
特にチョコバッキーケーキは、子どもから大人まで「チョコバッキーがそのままケーキに!?」という驚きが人気の理由です。
取材のたびに、つい自腹で買って帰ってしまうほどの中毒性があります。
Q3：美味しく食べるコツは？
→ これ、意外と重要なんです。
冷蔵温度は5〜8℃をキープ。冷えすぎるとクリームが固まり、風味がぼやけてしまいます。
食べる10分前に冷蔵庫から出しておくと、香りとコクが一気に広がる。
しかも購入後2日以内がベスト。これを守るだけで、「あれ、今日のほうが美味しい」と感じる確率がぐんと上がります。
ケーキって、保存方法ひとつで“感動のタイミング”が変わるんです。
僕も取材を重ねるたびに、「次はこの条件で試そう」とワクワクしながらメモしています。
それくらい、シャトレーゼのケーキには“探究したくなる余白”がある。
引用・参考文献
- macaro-ni.jp｜シャトレーゼ人気ケーキランキングTOP10
- KitchenBrothers｜シャトレーゼのケーキはまずい？まずい派vsうまい派
- Yahoo!知恵袋｜ホールケーキって、価格の割においしくないの？
- Liverny｜シャトレーゼケーキまずい？うまい！私の美味しい体験
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